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15.屈折異常・調節異常

編集:小玉眼科医院院長 小玉 裕司 先生

こないだね、学校で視力を測ったの。
アイ、下のほうの小さな字がよく見えなかったんだぁ。
去年まではちゃんと見えたのに...

眼はオートフォーカス(自動焦点)カメラ

 眼の仕組みはよくカメラにたとえられます。カメラは、シャッターを切った瞬間にレンズを通過した光がフィルム上に焦点を結ぶことで、映像がフィルムに焼き付けられます。ただしシャッターを切る前には、ピントリングを回してピント合わせをしないといけません。ピントが合っていないと、輪郭がはっきりしないピンぼけ写真になってしまいます。ただ、最近のオートフォーカス(自動焦点)カメラは、このピント合わせを機械がやってくれます。

 人間の眼はどうでしょう。眼でカメラのレンズに相当するのは角膜と水晶体、フィルムに相当するのは網膜です。もちろん眼には最新型カメラを上回る性能のオートフォーカス機能が備わっていて、意識しなくても瞬時に、網膜にピントが合うように調整されています。

角膜と水晶体―ピント調節の仕組み―

 眼のオートフォーカス機能はどのような仕組みになっているのでしょうか。

 眼球に入る光が最初に通過するのは角膜です。角膜は光を屈折させる凸レンズの役割を担っています。しかし角膜の形状は変えられないので、屈折率は変化せずピント調節はできません。

 角膜を通過した光が次に通過するのは水晶体です。水晶体は、光の屈折率が一定な角膜とは異なり、周囲にある毛様体という筋肉の働きで、その厚みを変えることができます。つまり、屈折率を調節できます。

 近くを見るときは毛様体が緊張し、水晶体が厚くなります。その結果、屈折率は強くなります。反対に遠くのものを見るとき(またはリラックスしているとき)は、毛様体の緊張がなくなり水晶体は薄くなって、屈折率は弱くなります。眼のオートフォーカス機能は、このような仕組みで成り立っています。

ピントが網膜から外れる理由

 ところが、なにかしらの理由でこのオートフォーカス機能に狂いが生じて、網膜にピントを結べなくなることがあります。そのため網膜にはピンぼけの映像しか写らず、視力が低下してしまいます。

 ピントが網膜から外れる理由は二つあります。一つは眼球の長さ(角膜から網膜までの距離。医学用語で眼軸〈がんじく〉長といいます)が、通常よりも長いためや短いために、網膜にピントが合いづらくなること、もう一つは水晶体の厚さの調節、屈折率の調節がうまくいかなくなることです。このような状態を屈折異常・調節異常といいます。

近視は焦点が網膜の手前にある状態

 近視は網膜よりも手前に光の焦点が結ばれてしまう屈折異常です。近くのものははっきり見えても、少し距離が離れているものは、輪郭がぼーっとぼやけて見えます。原因として、角膜や水晶体による光の屈折率が強すぎることや、眼軸長が長すぎることがあげられます。

矯正方法

 眼軸長に対して屈折率が強すぎる状態ですから、凹レンズの眼鏡やコンタクトレンズで屈折率を弱めれば、網膜に焦点を結びはっきり見えるようになります。

仮性近視とは

 読書やテレビゲーム、OA機器操作などで近くのものを長時間見ていると、その間、毛様体はずっと緊張しています。そのため作業を終えたあともその緊張がとれずに強い屈折率が残ってしまい、近視と同じような状態が続いてしまいます。これが仮性近視(偽近視)で、医学的には屈折異常と区別し、水晶体の調節異常とされます。

 仮性近視の場合、毛様体の緊張がなくなれば元の視力が戻るので、毛様体の緊張をとる点眼薬が処方されます。また、遠くを見ることを心掛けるのも効果があります。

強度の近視の人は網膜剥離に注意

 強度の近視の人は、網膜剥離が起きやすいことが知られています。近視が強いほど眼軸長は長く、網膜が引っ張られて薄く剥がれやすくなっているためです。網膜剥離は早く治療しないと失明に至ることもあるので、目に異常を感じたら早めに眼科を受診してください。

遠視は焦点が網膜の後ろにある状態

 遠視は近視とは逆に、角膜や水晶体による光の屈折率が弱すぎたり眼軸長が短いために、焦点が網膜よりも後ろにいってしまう屈折異常です。このため、つねに毛様体を緊張させて、水晶体を厚くした状態を維持しなければなりません。眼精疲労を招いたり、調節しきれない場合には物がぼやけて見えてしまいます。とくに近くを見るときは、より強い調節が必要になります。

矯正方法

 近視の矯正とは反対の、凸レンズの眼鏡などで屈折率を強め、矯正します。


遠視と弱視、緑内障の関係

 幼児期は眼球も小さく眼軸長が短いため、遠視であることがふつうですが、その程度が強い場合に放置していると、弱視の原因になります。また成人では、緑内障(閉塞隅角緑内障)になりやすい傾向があります。

乱視は焦点が二か所以上に分かれる状態

 角膜はその頂点(正面から見た場合の中央、眼軸上にある一点)を中心に、全方向均一なカーブを描いています。均一でなく、方向によってゆるいカーブときついカーブがあると、光の焦点は二つに分かれてしまいます。これが乱視です。

 症状は、物が二重に見える、視力がよくない、などです。乱視に近視や遠視が重なっている場合もあります。なお、まれなことですが、角膜ではなく水晶体のゆがみによって乱視になっていることもあります。

正乱視と不正乱視

 乱視には正乱視と不正乱視があります。正乱視は、屈折した光が一点では焦点を結ばないものの、二か所で焦点を結ぶ状態です。単に乱視という場合はこの正乱視のことをいいます。これに対し不正乱視は、角膜のカーブが不規則に変化しているため、どこにも焦点が結ばれない状態です。円錐角膜(本来はなだらかな球面状である角膜表面が、とがって突出している状態)や角膜潰瘍〈かいよう〉などで起こります。

正常な角膜 円錐角膜

矯正方法

 正乱視は、一方向の屈折率を強調して変える円柱レンズを用いた眼鏡(または特殊なコンタクトレンズ)で矯正できます。不正乱視は眼鏡では矯正できず、ハードコンタクトレンズを使用します。コンタクトレンズと角膜の間の隙間が涙で満たされ、その涙がレンズと同じ働きをするので、不正乱視が矯正できます。乱視の矯正が不十分な場合やコンタクトレンズが使えない状態では、レーザー手術や角膜移植によって治療します。

老眼は水晶体の調節力が低下した状態

 「おやっ? 物がぼやけてるぞ。また視力が悪くなったのかな? それとも...」。

 気持ちは若くても、年とともにからだのほうは無理がきかなくなってきます。高性能オートフォーカスカメラとして酷使に耐えてきた眼も、いつまでも新品と同じように働き続けてはくれません。

 ピント調節機能を備えたレンズである水晶体は、加齢とともに徐々に弾力性が低下し硬くなります。それに伴い調節できるピントの幅が狭くなり、光をより強く屈折させなければならない近くを見るときに、ピントが合いにくくなります。老眼(医学用語では老視)の始まりです。

 老眼は、近視や遠視、乱視などの屈折異常に対して調節異常と呼ばれます。水晶体の調節力は、実際には幼児期から少しずつ衰え始めているのですが、それが自覚症状となって現れるのは、40歳過ぎごろからです。

矯正方法

 調節力が低下すると、近くを見るときに、遠視と同じような状態になります。遠視の場合と同じ凸レンズによって、視力を矯正できます。ただし、屈折力の調節範囲が狭くなるので遠近両用レンズが必要になったり、老眼の進行が止まる65歳前後まで、度の進行に合わせてこまめにレンズを変更する必要があります。最近では、遠近両用コンタクトレンズも各種市販されています。

眼鏡とコンタクトレンズの長所と短所

 屈折異常も調節異常もほとんどは眼鏡かコンタクトレンズによって矯正できます。正しく使用すればいずれも安全なので、どちらを選ぶかはその人の好みで決めてよいといえます。しかし、長所・短所や注意点があり、医学的にどちらかを優先して選択したほうがよい場合もあります。ここで、それぞれを比較してまとめておきます。

※1 不同視 : 左右の視力(屈折)が極端に異なること。

※2 不等像視 : 網膜に写る映像の大きさが左右で大きく異なること。物を両眼で見られず、無理して両眼で見ようとすると強い眼精疲労が起きます。

Q&Aコーナー

Q:なぜ近視や遠視になるのですか?

A:一番大きな原因は遺伝と考えられています。近いものを長時間見る、などといった環境面の影響もあり、仮性近視はとくにその影響が強いといえます。近年はテレビゲームの普及が原因と思われる、近視の低年齢化が進んでいます。



Q:近視の度の進行は、いつまで続くのですか?

A:近視の進行は、からだの成長とともに眼球もわずかずつ大きくなり、眼軸長が長くなることが主因です。からだの成長が止まる20歳前後以降は、近視もそれほど進行しなくなります。



Q:近視の人は老眼になりにくいって本当ですか?

A:水晶体の調節力が衰えるスピードは、近視や遠視に関係なく誰でもほぼ同じです。ですから近視の人でも老眼になります。ただ、眼鏡やコンタクトレンズをはずすと近くがよく見えるので、症状に気付きにくいことは確かです。



Q:眼鏡やコンタクトレンズを作るとき、視力測定のほかにも、なにかの器械を覗く検査をすることがありますが、あれはなにを調べているのですか?

A:角膜の形状を調べたり、機械的に近視や遠視・乱視の程度を測定しています。視力矯正の一番適切な方法を決めたり、コンタクトレンズが角膜の形状に合うかどうかなどを確認します。



Q:眼鏡をかけると視力の低下が早まるそうですが...

A:よく尋ねられる質問ですが、そんなことはありません。眼鏡が必要になるということは、視力低下が進行し始めた時期ということで、レンズの度数をこまめにチェックする必要があります。そうしたことが、このような誤解を生むのだと思います。眼鏡をかけずにがまんしたからといって、視力低下を抑えられるわけではありません。



Q:屈折異常の手術治療について教えてください。

A:角膜の周辺部分を放射状に切開したり、レーザーで角膜を平坦にします。すると角膜の屈折率は弱くなり近視が矯正され、乱視も治せます。最近では遠視を治すこともできるようになってきました。器機や技術の進歩で安全性も高くなっています。しかし、健康な角膜を傷つけ、元の状態に戻せなくしてしまう(やり直しがきかない)この手術を積極的に行うかどうかは、眼科医によって考え方が異なります。主治医に十分な説明を受け、自分の屈折異常の治療に適しているかどうか納得してから受けてください。なお、保険は適用されませんので費用は全額自己負担になります。



Q:「近視が治る」という治療法や視力訓練法の情報がたくさんありますが、本当のところはどうなのですか?

A:近視が根本的に治ることはありませんが、確かに一時的に視力回復効果が認められるものもあります。ですから、すべて一律にだめと否定することはできませんが、情報を鵜呑みにせずに、眼科医に相談するとよいでしょう。



  なお、視力はもともと測定時の体調や暗示、測定の条件などによって、結果にバラつきが生じやすいものです。また成人後でも老眼が始まるまでは、視力低下の一部が仮性近視によるものの可能性も考えられ、その場合は理論的にも視力回復訓練が有効なケースがあります。

そーかー。アイはきっと近視なのね。アイのパパも眼鏡をかけてるし。インターネットのやりすぎかなー? 眼鏡とコンタクト、どっちにしようかしら。初めて眼鏡をかけて学校にいくときって、ちょっと勇気がいりそうだな...


シリーズ監修:堀 貞夫 先生 (東京女子医科大学名誉教授、済安堂井上眼科病院顧問、西新井病院眼科外来部長)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2007年9月改訂